― 決断の質は、“決めない工夫”から生まれる ―
アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ。
その革新性と完璧主義に満ちたプロダクト設計は、今もなお多くの人に影響を与えています。
そして彼がもうひとつ有名だったのが――毎日、同じ服を着ていたということ。
黒のタートルネック、ジーンズ、スニーカー。
どのプレゼン、どのスピーチを見ても、同じ服装。
それはただの「こだわり」や「美学」ではありませんでした。
その行動には、明確な理由があったのです。
「決断のエネルギーを、本当に重要なことに使うため」
この考え方、実は学級経営においても極めて有効なヒントになります。
ジョブズが服を選ばなかった理由=決断疲れ(Decision Fatigue)を避ける
私たちは、1日に3万5千回以上の「選択」をしていると言われています。
朝起きてから、寝るまでの間に――
• 何を食べるか
• どの靴を履くか
• 誰にどんな言葉をかけるか
• どのタスクを先にやるか
ひとつひとつは小さなことですが、それらすべてに「脳のエネルギー」が消費されていきます。
これが、決断疲れ(Decision Fatigue)です。
脳には「決断の筋力」があり、使えば使うほど疲弊して、判断の質が落ちていくということが研究で分かっています。
スティーブ・ジョブズは、この「余計な判断疲れ」を避けるために、服を選ばないという戦略をとったのです。
学級経営における“決断疲れ”
教師の毎日は、まさに「決断の連続」です。
• 朝の会、何を話すか
• 提出物がまだの子に声をかけるか、少し待つか
• 掃除をやっていない子に注意するか、見守るか
• 授業で挙手しない子を指名するか、黙っておくか
• トラブルが起きたとき、今対処するか、あとにするか
これらすべてが、小さく見えて、大切な“教育的判断”です。
その判断を1日に何十回、何百回も繰り返していれば、夕方には「もう何も考えたくない…」という状態になってしまっても不思議ではありません。
判断の質を保つには、「決めない」ことも戦略になる
ここで、スティーブ・ジョブズのように「決めない仕組み」を持っておくことが、学級経営にも効いてくるのです。
たとえば:
■ ルーティン化する
「朝の会は、曜日ごとにテーマを決める」
→ 月曜:週末のふりかえり/水曜:今週のめあて/金曜:ほめ合いタイム
いちいち「今日は何を話そう?」と考えなくて済みます。
■ 「決めないでいいこと」は決めない
• 係の交代は、子どもたち同士で決めさせる
• 宿題チェックはグループで自己確認
• 小テストの返却順も、あらかじめルール化
教師がいちいち判断しなくても済む場面を、構造で回すようにします。
■ “迷う時間”を減らすための準備
• 授業の板書パターンはある程度テンプレ化
• 提出物は「名前がなかったら即返す」など、ルールを明示
• 子どもの状態を日々記録しておき、「気になる子」は朝のうちに目を通す
これらはすべて、「余白をつくる準備」です。
教師の一番の仕事は、“大事な判断”をすること
スティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着ていたのは、「服に興味がないから」ではありません。
むしろ、自分のエネルギーを“最も重要な決断”に注ぎたいと考えたからです。
教師の仕事も、同じです。
• 子どもが困っているサインに気づけるか
• 一人の子のつぶやきから、学級の方向を変えるか
• 自分の授業を修正する勇気を持てるか
こうした判断は、疲れているときには難しい。
だからこそ、“判断しなくていいこと”を減らしておくことが、大事な判断の質を守ることにつながるのです。
「省エネ」ではなく、「集中のための節約」
ここまでの話を「効率化」「省エネ」ととらえる方もいるかもしれませんが、そうではありません。
これは、「ラクをする」ための工夫ではなく、
「子どもに向き合うエネルギーを残すため」の節約です。
• わざわざ決めなくていいことを決めない
• 繰り返すことはパターン化する
• 判断の基準を先に決めておく
こうした習慣が、本当に子どものためになる判断を可能にしてくれるのです。
おわりに:「毎日同じ服」から学べる教師の在り方
スティーブ・ジョブズが同じ服を着続けたのは、「自分の時間と集中力を、最も価値のあることに投資するため」でした。
教師の毎日も、限られた時間と心の余白の中で動いています。
すべてを丁寧に、すべてを完璧に判断することは不可能です。
だからこそ、「決めなくていいことは決めない」という姿勢は、
本当に大切にすべき子どもの姿と判断にエネルギーを注ぐための、戦略的な選択なのです。
あなたの“判断”は、学級の空気を変え、子どもたちの自己認識を変えます。
その判断が疲弊しないように、“ジョブズ的な学級マネジメント”を、今日から少しずつ取り入れてみませんか?