― 「できていない」ばかりが目に入る前に ―
「この子たち、全然できていないな」
「何度言っても、直らない」
「思っていたような学級にならない」
ふと、そう感じてしまうことはありませんか?
私たち教師は、理想を持っています。こうありたい、こういう学級にしたい、こういう子どもたちになってほしい。
その理想を持つこと自体は悪いことではありません。むしろ、それがあるからこそ日々努力できるし、学び合い、支え合える集団を目指していけます。
けれど、その理想が知らぬ間に「高すぎるハードル」になってしまっていることもあるのです。
そしてその高さゆえに、子どもたちの“できている面”が見えなくなってしまう。
今回は、学級経営・授業づくりにおいて、「ハードルの高さが教師のまなざしをどう変えるか」について考えてみたいと思います。
ハードルを高く設定すると、見えてくるのは「できていないこと」
人は、基準が高くなればなるほど、「そこに到達していない部分」に目がいきます。
たとえば、
• ノートの書き方が雑だ
• 授業中の集中力が続かない
• 係活動が自主的に動いていない
• 毎朝遅れてくる子がいる
• 提出物を何度も催促しないと出せない
こういった“できていないこと”が、毎日のように目に飛び込んでくる。
それは、決して子どもたちのせいだけではなく、教師側が「到達点を高く置きすぎている」からそう見えるという側面もあります。
もちろん、目指すべき学級像や指導目標があることは大切です。
しかしその基準を「今の子どもたち」に照らしてみたとき、
本当にそれは適切な高さのハードルか?と立ち止まる必要
があるのです。
ハードルを下げることは、“妥協”ではない
「ハードルを下げる」と言うと、まるで「基準を甘くする」「厳しさを手放す」というような印象を持たれるかもしれません。
でも、ここで言いたいのはそういうことではありません。
ハードルを下げる=“今の子どもたちの現状に合った、現実的な期待に基づく目標を設定する”ということ。
• いきなり話し合いが活発になることを期待するのではなく、「今日一人でも新しい意見が出たらOK」と考える
• 全員が一度に集中できることを求めるのではなく、「前よりも2分長く静かに取り組めた」ことを前進とみなす
• 提出期限に全員がそろうことを求めるのではなく、「前回より早く出せた子がいる」という変化に目を向ける
このようにハードルの高さを調整することで、子どもたちの“できている面”が見えやすくなるのです。
「前よりできている」に気づく教師でありたい
学級がうまく回っていないように感じるとき。
授業が落ち着かないとき。
「こんなはずじゃなかった」と思うとき。
そんなときに必要なのは、「どうしてできないのか」と問い詰めることではなく、
「前よりできていることはないか?」と探し直す視点です。
• 前回は指示を無視していた子が、今日は話を聞こうとしていた
• ノートを取らなかった子が、少しだけでもメモを残していた
• 発言しなかった子が、「うん」とうなずいた
こうした小さな変化を見逃さずに拾う力こそが、教師の専門性であり、学級経営の基盤です。
高すぎるハードルは、「できていないこと」しか見えなくしてしまいます。
適切なハードルは、「今の子どもたちの成長の証」を見える化してくれるのです。
「期待しすぎ」は信じていないのと同じ?
ときに私たちは、「子どもを信じているから」「可能性があるから」と言って、高いハードルを課してしまいがちです。
でも、それは裏を返せば、「今のままの君たちでは足りない」というメッセージにもなりかねません。
信じることとは、「今、ここにいるその子を受け止めること」。
期待することと信じることは、似て非なるもの。
期待が先行すると、達成できなかったときに落胆や否定につながってしまいます。
でも、信じている教師は、「その子のペースで進んでいること」そのものを認めます。
ハードルの高さを調整する力も、教師の専門性
• 子どもを見取りながら、今日の目標を柔軟に変える
• 昨日の反応をもとに、今日の活動内容をアレンジする
• 個々の状況を踏まえて、「できた」と評価する基準を多層化する
これらはすべて、
教師の「まなざしの質」と「ハードル設定力」の表れ
です。
誰かと比較して、同じ枠で評価することは簡単です。
でも、目の前の子どもの歩幅に合わせて、一人ひとりに合ったハードルを置き直すには、時間と想像力と経験が必要です。
それでも、そうして設定されたハードルなら、
子どもは「越えたい」と思えるし、「越えられる」と信じられる。
おわりに:「下げたハードル」こそ、跳びたくなる高さである
教師の仕事は、ハードルを“高く”置くことではありません。
「跳べるかもしれない」と思える高さに置くことです。
それは決して甘さではなく、子どもが跳びたいと思える舞台を用意すること。
• 高すぎるハードルは、意欲を削ぐ。
• 適切な高さのハードルは、挑戦の気持ちを引き出す。
子どもたちにとって「跳べた!」という感覚は、小さな成功体験として積み重なっていきます。
そしてその一歩一歩が、「自分はやればできる」「ちょっと頑張れば次に進める」という自己効力感につながっていきます。
だから今日、学級が少しうまくいかないと感じたときこそ、問い直してみてください。
私が見ている“できていない”は、本当に“できていない”のか?
それとも、ハードルの置き方が高すぎただけなのか?
教師がハードルの高さを変えるとき、
子どもの見え方も、学びの流れも、クラスの空気も、きっと変わっていきます。