― 支える人とともに、子どもたちの存在をまるごと讃える ―


5月5日は「こどもの日」。
鯉のぼりが空を泳ぎ、柏餅の甘い香りが漂い、子どもたちの健やかな成長を願うこの日は、日本の春を象徴する風景の一つとなっています。

「こどもの日」は、子どもたちが主役。
その存在をお祝いし、これからの成長を心から願う日。

そう語られることが多くなりました。SNSでは、子どもへのプレゼントや手作りのお祝いごはんがシェアされ、学校や保育園ではこいのぼりの制作や由来の学習が行われます。

確かに、「子どもにスポットライトが当たる日」という意識が広がるのは喜ばしいことです。
しかし、その一方で、あまり語られなくなってきている、もうひとつの大切な側面があります。

それは、「母に感謝する日」である、ということです。

こどもの日とは何の日か? 法律に刻まれた意味


「こどもの日」は、1948年に制定された国民の祝日です。祝日法(国民の祝日に関する法律)第2条には、次のように記されています。

こどもの日:こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する。

ここには明確に、「母に感謝する」という文言が含まれています。
つまり、こどもの日とは単に「子どもを祝う日」であるだけでなく、「子どもを育てている人への感謝を改めて思い出す日」としても、制度的に位置づけられているのです。

しかし、現代においてこの「母に感謝する」という意味が、やや薄れつつあるのも事実です。

なぜ「母への感謝」が語られにくくなったのか


こどもの日を「子どもへのプレゼントの日」「こいのぼりをあげるイベントの日」として捉える風潮が強くなった背景には、いくつかの要因が考えられます。

1. 「母の日」との役割の分担

5月第2日曜日には「母の日」があり、「感謝」はそちらで十分に伝えればよい、という認識が一般化しています。

2. 家族のかたちの多様化

現代では、母親に限らず、父親、祖父母、里親、施設職員、同性パートナーなど、さまざまな立場の人が子どもの養育に関わっています。「母に感謝」という表現が、すべての家庭に当てはまるものではなくなってきているのです。

3. 子ども中心主義の広がり

「子どもが主役であるべき」という理念が尊重される一方で、「支える存在への視点」や「子育ての重層的な背景」が語られにくくなっている側面も否めません。

こうした理由から、こどもの日の“もうひとつの意味”が、ゆるやかに置き去りにされつつあるのです。

「母への感謝」は誰かを称えることではなく、関係に目を向けること


ここで誤解のないようにしたいのは、「こどもの日は、子どもが親に感謝する日だ」というような道徳的な押しつけをすることが目的ではないということです。

感謝は、強要されて生まれるものではありません。
大切なのは、「子どもたちの幸福」を見つめるまなざしの延長線上に、支える大人の姿も静かに照らすことです。

子どもが子どもでいられるためには、見守り、手を貸し、ときに黙って待ってくれる存在が必要です。
「母に感謝する」という一文には、子どもを育てるすべての人への敬意が含まれているのです。

子どもが子どもであることを喜ぶ日


では改めて、こどもの日とはどんな日なのでしょうか?

それは、「子どもが子どもであることを、ただまるごと喜ぶ日」です。
何かができたから祝うのではなく、がんばった結果を讃える日でもない。

いま、ここに、子どもがいる。
それだけで十分に素晴らしい。

そう思えることこそが、こどもの日の本質です。

だからこそ、この日に伝えたいメッセージは、こうです。
• 「いてくれて、ありがとう」
• 「あなたが元気でいてくれることが、うれしい」
• 「子どもである今を、めいっぱい楽しんでほしい」

子どもとともに、大人にも“ありがとう”を


子どもの健やかな成長は、一人では叶いません。
毎日の食事、寝かしつけ、声かけ、通学の見守り、絵本を読む時間、そしてときには涙をぬぐう手――
そのひとつひとつを支えているのは、誰かの「愛」と「時間」と「忍耐」です。

このこどもの日には、子どもたちの姿を見守ると同時に、
そのすぐ隣にいる大人たちの営みにも、小さな「ありがとう」のまなざしを向けてみませんか?

子育て中のすべての皆様へ


そして、この記事をここまで読んでくださった、子育ての真っ最中にあるすべての皆様に、心からのメッセージを贈ります。

日々、誰に見られるでもなく
小さな選択と配慮を重ね
ときに孤独と向き合いながら
子どもと共に生きてこられたあなたへ――

本当に、よくやってこられましたね。
今日ぐらいは、ご自身を思いきり讃えてください。

あなたが子どもを支えてきた日々は、
その子の記憶の中にも、未来のまなざしの中にも、確かに残っていきます。

こどもの日――
それは、子どもたちの幸せを願うすべての人たちの歩みにも、「ありがとう」と伝えることのできる日です。