一方、自由進度学習の導入・運用にはいくつかの課題も指摘されています。主な課題として、次のような点が挙げられます。
• 学習指導要領との両立(学習内容の管理): 各自のペースに任せるあまり、カリキュラム(学習指導要領で定められた内容)の消化が遅れる恐れがあります 。最終的に全員が学ぶべき内容に到達できなければ本末転倒です。実際、「自由進度で進めてみたものの全員が必要な内容を履修しきれず、結局最後に一斉授業で補完した」というケースもあったと報告されています 。特に学習が遅れがちな子が放置されないよう、進度の下限や要指導ポイントを管理する工夫が必要です。
• 教師の負担増(マンパワーの不足): 一クラスの中で進度や理解度がバラバラになるため、個別対応に教師の労力がかかるようになります 。学習能力の高いグループ・中くらいのグループ・苦手なグループなど、クラス内で複数の進度層に目を配る必要があり、教師一人では手が足りなくなる恐れがあります 。理想的には各グループに教師や支援員を配置したいところですが、現実にはそこまで人的配置はできません。結果として指導が行き届かず、自由進度学習のメリットを十分生かせなくなる懸念があります 。また、事前に多様な教材(基礎用・発展用など)を準備したり、個別の進度に合わせた評価・記録を行ったりする手間も増えるため、教師の負担は決して小さくありません。
• 児童生徒の自己調整の難しさ: 学習計画を自分で立てること自体、特に低学年や学習習慣の未熟な子どもにとっては難しい作業です。計画通りに進める自己管理能力もいきなりは身につきません。最初のうちは計画がうまく立てられなかったり、学習の進め方が分からず戸惑ったりする子も出てきます 。この点は教師のフォローや友達同士の助け合いで徐々に解消されていくとの報告もありますが 、軌道に乗るまでは丁寧な支援が求められます。
• 「個別」と「協働」のバランス: 自由進度学習は放っておくと子どもが孤立してしまうリスクもあります。個々が別々のことをしているだけでは、教室がバラバラになり学び合いが生まれない可能性があります(やり方によっては「孤立した学び」になりかねないと指摘されています )。特に内気な生徒は自分から質問や協働を求めにくく、黙々と手元の課題に取り組んで終わってしまうことも考えられます。協働的な学びをどう組み込むかも課題の一つです。
• 学校全体での取り組みへの難しさ: 自由進度学習をクラスの一部や特定の教師だけが試みても、なかなか継続的な成果につながりにくいと言われます 。学校全体でカリキュラムを再編したり、教員同士で指導法を統一したりといった組織的取り組みが欠かせません。しかし現実には、学校内で十分な合意形成や研修の時間を確保するのが難しかったり、従来型の授業との併用で試行錯誤が必要だったりします。学校ぐるみでの推進体制を築くこと自体が一つのハードルとなっています。
以上のように、自由進度学習には学習内容の管理の難しさや人的・物的リソースの不足、指導法転換への戸惑いなど複数の課題が存在します。これらを踏まえ、各校で工夫や改善を重ねることが求められています。

2025/03/02 13:22