自由進度学習の効果を高め課題を克服するために、現場ではさまざまな改善策が講じられています。また、今後の展望として以下のポイントが重要視されています。

• 単元内・部分的な導入で管理しやすく: 授業のすべてを自由進度にするのではなく、単元内の一部時間を自由進度学習に充てる形が現実的だとされています 。例えば45分授業なら最初と最後の10分程度はミニレッスンや全体での振り返りを行い、中盤の時間を各自の学習に充てるというようにメリハリをつける方法です 。こうすることで教師もクラス全体の到達度を把握しやすく、また児童生徒も見通しを持って取り組めます。天童中部小学校のように単元ごとに自由進度学習を取り入れる方式も、有効な折衷案と言えます 。すべてを個別進度に任せるよりも、要所要所で全体指導を組み合わせることで、カリキュラムの履修漏れを防ぎつつ個別学習の利点を享受できます。

• 学習計画のサポートと環境整備: 子どもたちに「はい計画を立てなさい」と丸投げするのではなく、教師が雛形となる計画表や学習の手引きを用意することが効果的です 。宮園小学校でも教師が作成した大まかな計画表をもとに子どもたちが自分の計画を肉付けしていました 。必ず全員が取り組むべき基本の課題と、興味に応じて選択できる発展課題等を明示することで、計画の立てやすさと学習内容の担保を両立できます 。また、各自の進度や理解度に合わせた複数種類の教材を準備したり、理科の実験や観察ができるスペース、調べ学習用の図書・ICT環境を整えたりと、学習環境の充実も欠かせません 。一人一台端末の活用により、ドリル的な練習問題は自動採点で即座に結果が分かるようにしたり、学習ログを収集して教師が進捗をモニタリングしたりといった工夫も各地で進んでいます 。

• 協働学習との有機的な組み合わせ: 自由進度学習の効果を高めるには、協働的な学びとのバランスが重要だと指摘されています 。先行事例の緒川小学校でも、カリキュラム全体の約4割を個別化された学び(自由進度学習等)に充て、残り6割は集団学習に充てるバランスを取っていました 。個別と協働を有機的に関連付けることで、より効果的な学びが実現できるとされています 。具体的には、自由進度で学んだ内容をグループで共有・討議する時間を設けたり、ペア学習やピア・ティーチング(児童同士の教え合い)を評価の一部に組み込んだりする方法が考えられます。こうした仕組みで学びの深化と社会的スキルの育成を両立させることができます。

• 教師間の協力と研修: 自由進度学習は一人の教師の創意工夫だけで完遂するのは難しいため、学校全体で協力し合い計画・実践していく必要があります 。そのための教師間の情報共有や研修体制の構築が改善策として挙げられます。学校内で目標を共有し、定期的に実践の成果や課題を持ち寄って評価・改善を図る仕組みがあると望ましいでしょう 。名古屋市の山吹小学校のように外部の教育団体(日本イエナプラン協会など)の協力を得て教員研修を行うケースもあります 。広島県では教育委員会主導で指導主事等が学校の授業づくりに伴走支援し、大学研究者と現場教師が対話する場を設けるなど、地域ぐるみでノウハウを蓄積・共有する試みも行われました 。このように教師の専門性向上と協働が、自由進度学習の定着に向けた鍵となります。

今後の展望としては、自由進度学習は国の方針である「個別最適な学び」の実現手段の一つであり、今後さらに普及が進むと予想されます。実際、先進校の成果を受けて同じ県内の他校が触発され、新たにチャレンジする動きも出ています 。例えば広島県では、実証研究に参加した学校がその後も取り組みを発展させて継続するとともに、それを参考に県内各地で新たに個別最適な学びに挑戦する学校が増えてきていると報告されています 。このように横展開やネットワーク化が進めば、成功事例と課題克服の知見が蓄積され、より多くの学校で実践可能となるでしょう。文部科学省も学習指導要領の実施状況等を見ながら、今後自由進度学習的な手法を公式に位置づけたり支援策を講じたりする可能性があります。とはいえ、現場の状況(クラス規模や教員数、児童生徒の特性)は学校ごとに様々です。一足飛びに全ての学校で完全な自由進度学習を行うのは難しいかもしれませんが、部分導入やハイブリッド型の授業改善からでも少しずつ進めていく価値は大きいでしょう。